プロレスがしたいんです

リングでのスパーリングを終えたファントム・ヤマプロは、目の前の女性を見ながら考え込んでいた。

うつ伏せでグッタリしてるのはアイドルレスラーのグレート・白斗桃だ。

 

ファントム「だいぶプロレスらしい動きが出来るようになりましたね。これぐらい出来れば、実戦でも使い物になると思いますよ。」

 

桃「あ、ありがとうございます…でも、もう動けない…」

 

ファントム「男女では力の差もありますし、体格も違いますからね。でも、いざ戦いとなったら相手は選べません。どんな相手とでも戦える技術が欲しいんでしょう?」

 

桃は身体を起こす。

 

桃「はい。そうすれば戦える機会が増えるかなって。今は少しでもチャンスが欲しいんです。アイドル活動だけじゃない、ちゃんと戦えるんだっていうアピールが私はしたいんです。周りは所詮アイドルだってまともに取り合ってくれませんが、先生だけが私の思いを受け止めてくれて、本当にありがたいです。」

 

ファントム「いえいえ、私は断れない性分なだけですよ。ところで、戦いの機会ですが……どうでしょう、私が主宰するイベントに参戦してみませんか?」

 

桃「本当ですか!?出たい!是非とも出たいです!でも、私なんかで良いんですか?」

 

ファントム「私だって貴方のアイドルとしての人気を見込んで依頼してるようなもんです。そんな理由でも良かったらお願いしたいですね。勿論、貴方の実力もちゃんと認めてますよ。ただ、相手はね、ちょっと強い人しかツテがないんですよ。格上です。大丈夫ですか?」

 

桃「どんな理由でも構いません!私の実績からすれば、殆どの方が格上になると思いますし、勝ち負けよりも試合できることの方が今は大事かなって。とにかく!なんでもやりますので、よろしくお願いします!」

 

ファントム「分かりました。じゃあ、こちらこそよろしくお願いします。詳しくは追って連絡しますので。」

 

 

「そんなの嫌よ!」

 

翌日、ファントム・ヤマプロは金髪の女性に怒鳴られていた。ヤマプロ自主興行「Phantom.1」第三試合のオファーを、ジュエリー・キンバリーへ出場交渉していたところだ。

 

ファントム「まあまあ、少し落ち着いて……」

 

キンバリー「落ち着いてられないわ!ワタシがその子と戦う事に何の意味があるっていうの?単なる若手の相手を引き受けるほど暇じゃないわ。ワタシはね、宝石のように輝く実績をワタシの実績に散りばめたいのよ。数々のタイトルを総ナメにしたいし、強者と記憶に残る名勝負を、記録を、残していきたいのよ。分かる?貴方が指導してくれたことには感謝はしているし、日本で交渉役をやってくれてるのもありがたいわ。だからって無意味な事まで相手する気は無いわよ?」

 

ファントム「貴方のその理想、追い求めてるもの、理解してるつもりですよ。でもまあ、折角日本に滞在してるんですから。確かにあの子は実力も実績もまだまだかもしれません。でもね、海外で活躍してたとはいえ、貴方の日本での実績はまだまだです。戦いを披露してアピールする場は多い方が良いでしょう?」

 

キンバリー「それはそうよ。だから貴方からのオファーは大体受けてる。でも、相手が問題だって言ってるよの。もっと他に相手がいるんじゃない?他の団体にも強いのいるじゃない。」

 

ファントム「貴方は目先の実績しか見ていないようですが、彼女が将来有望だとしたら?貴方との戦いを経て経験を積んで、実力と実績を積んで、エースとなった時にリベンジをしたいのは誰ですか?貴方でしょう?そのストーリーにお客は盛り上がるのです。記憶に残る勝負というのはこういうところから産まれるのですよ。」

 

キンバリー「うーん……貴方の言いたいことは分からなくはない

。つまり、彼女は有望なのね?」

 

ファントム「ええ、とても。」(多分)

 

キンバリー「分かったわ。貴方がそこまで言うのなら相手してやっても良いわ。ただし、手加減はしないわ。当然、ボコボコにするわよ?」

 

ファントム「構いません。そうじゃないとお互いのためになりません。存分にどうぞ。」(あの子、大丈夫かな?)

 

キンバリー「良いでしょう。そのオファー、受けるわ。良い原石なら、磨くのも一興でしょう。」

 

ファントム「そうそう、みっちり磨いてやりましょう!」(何か上手いこと言ってる、調子に乗ってきたかな?)

 

ファントム・ヤマプロは流れに任せて何とか説得を成功させた。テキトーな事を言ったのは少し後悔しているが、性分なので仕方ないと割り切ることにした。これで大したことなかったら、キンバリーからの信頼は損なわれてしまうかもしれないが、まあ何とかなるだろう。

 

ファントム「頼みましたよ、白斗さん……貴方の頑張りにかかってます!」

 

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