両者入り乱れた激戦であったが、最後は行徳恭二の放った渾身のハイキックで、シニアからカウント3を奪った。
葛西琢磨は行徳の元に駆けつけると、行徳に握手を求めた。それに対して行徳は差し出された手を見ながら俯いている。握り返すのを躊躇しているようである。
そうこうしているうちに、いつの間にかエプロンサイドには影が二つ。
試合が終わると同時に近付いてきた二人組のうちの一人はマイクを手にしていた。葛西にとって全く記憶に無い二人組である。しかし、行徳にとってはよく知る二人であった。
それはかつての同僚、昔同じ団体に所属していた穴倉想と穴倉瞬。通称、穴倉兄弟であった。彼らを知るものも少しはいるらしく、観客らはザワついている。その団体を潰したきっかけを作ったと言われる穴倉想はマイクを上げる。
想「行徳よ。久しぶりだな。元気そうじゃないか。仲間と随分仲良くやってるみたいじゃないか。でもなぁ、俺らと一緒に切磋琢磨してた頃のお前じゃないみたいだな。何にでも貪欲にチャレンジしていたお前は輝いていたがな。今はすっかりくすんでしまったな。今日の試合も全然熱くなかったよ。なんでだろうな?仲良しこよしやってるからかな?」
観客からは想に向けてブーイングが浴びせられる。
それに対して瞬が客席に中指を立てて応じている。
想「いま俺を笑ったか?お前らに笑われる筋合いはねぇよ。なあ、行徳。お前も俺を笑ってるのか?お前は良いよなぁ、こんなに声援を贈られて。どうせ俺なんか、どこに行ったってこんな風にブーイング貰ってばかりさ。なあ、行徳。お前には刺激が足りてないんじゃないか?どうよ。また俺らと昔みたいにつるんでよ、このリングでひと暴れしてみないか?そいつと組んでたってつまらないだろう?俺達はもっと刺激のある戦いをやってたじゃないか。こいつら、分かってないんだよ、本当の戦いって奴を。どうだ……って、おお、どうした?」
そう話してるうちに、いつの間にかトルメンタ親子が激しく言い争いをしているようだ。
想「おやおや、こっちも何か取り込み中みたいだな。じゃあ、今日のところは引き下がるとするよ。また来るからよ、その時まで考えときな。お前に必要なのは何なのかをよ。」
そう言うと穴倉兄弟は引き揚げていった。
それを見送ってから、行徳は無言のままリングを降りていった。
葛西はジュニアを止めに入っている。
ファントム・ヤマプロ達も二人の仲裁に入っていた。
シニア「お前はまだまだ!何度言ったらわかるんだ?負けたのはお前の救助が遅かったからだ。派手なアクロバットばかりに気を取られおって……」
ジュニア「いいや!僕はかなり攻めていたよ。負けたのは足を引っ張る年寄りのせいさ!僕はもう一人立ちできる、トップアスリートだ!いつまで子供にすがるつもりなんだい?」
ファントム「まあまあ、ここはリング上ですから。言い争いは裏でやればいいじゃないですか。」
ジュニア「いいや!僕は収まりがつかない。僕はタッグを解消したい。とうさん、僕と勝負しよう!僕が引導を渡してやる!現実を教えてやるよ!」
シニア「なんだと!?……良いだろう。こちらこそ、お前の未熟さをわからせてやろうじゃないか。おい、ファントム!次回のイベントでカードを組んでくれ。俺とバカ息子のシングルマッチだ!本物の戦いって奴を、観客にもお前にも見せつけてやるぞ!」
ファントム「わ、わかりました!考えますから、一旦下がって下さい!まだ後の試合が控えてますので……」
二人の言い争いに収拾が着くには暫く時間がかかった。用意したサプライズを後回しにせざるを得なかった因縁の勃発。嬉しい誤算ではあるが、何とか次回も開催に漕ぎ着けなくては意味がない。それは次のセミファイナル、ファイナル次第であるが、残りの2試合はニック・エリオットの要求のままに組んだ試合である。果たしてどんな企みが用意されているのか戦々恐々としているファントム・ヤマプロであった。