研鑽への道

「貴方はもっと自分の体格を活かした方が良いんじゃないかと思いますよ。」

 

ファントム・ヤマプロ熱波猛に諭すように言った。

 

「自分は何事においても基本が大事だと思うッス。体格を活かすためにもレスリング技術の向上は必要だと考えてるんスよ。」

 

「なるほど。貴方なりに考えているという訳ですね。確かにもう少し技術が必要ではありますから、やって悪いことはないでしょう。しかし、私では体格差があり過ぎますからね。もう少しガタイの良い相手じゃないと。」

 

「そこをなんとかなりませんか?」

 

「うーん、そうですねぇ……ではノーマン・オブスキュラとの対戦カードを組みましょう。これでどうです?」

 

「えっ?ノーマンですか?いや、試合が組まれるのは嬉しいんスけど、彼と自分はあまり歳が変わりません。身に付くものがどれだけあるのか……」

 

「ほぅ、なかなか大きく出ましたね。彼は若いけどキャリアとスキルは本物です。もちろん伸び代のある、まだまだこれからの選手ではあります。ですが、あなたの求めるレスリング技術はかなり高いですよ。」

 

「失礼しました!確かにPhantom.1ではメインイベントを務めていましたよね。自分、失念していたッス。では、胸を借りるつもりでぶつかっていきたいと思います。」

 

「いやいや、ぶつかっていっても良いですけど、レスリングを堪能するんですよね?ちゃんとじっくりしたレスリングで挑んでくださいね。せっかくの機会なんですから。ただ、彼の技術ってちょっとレガシーなんですよね。一体何処で覚えてきたんでしょうかね……」

 

「この機会を活かしてみせるッス。自分、越冬には負けたくないッス。一度は勝ちましたが、あれから越冬はシングルマッチが組まれたり、他団体のリングに上がったりと活躍して、経験を積んでます。このままではいつ追い越されてもおかしくない。自分も、もっと成長したいッス!」

 

「そんなに対抗心を持っているのに、長所より短所を埋める方に目が行く。遠回りを選ぶのですね。貴方達は良いライバルになりそうですが、考え方が全然違って面白いですねぇ。ノーマンには私から話しておきますので、当日は頑張って下さいね。」

 

ーーー

 

「という訳で、新人の相手をノーマンにはお願いしたいのです。受けてもらえませんか?」

 

「私がなぜ尻の青い若造の面倒を見なくてはならないんだ?私は事情を察して再デビューさせてくれたことには感謝してるが、私は一刻も早くトップレスラーに戻りたいのだ。もっと上のレスラーとの対戦機会を増やしてくれないか?」

 

「貴方の要望は心得ているつもりです。しかし、若手の手解きというのは年長者の務めでは?貴方のような大物なら広く業界の事を考えておられるでしょう。ならば、デビューしたての彼にトップの力を見せつけて成長を促してあげて欲しいのです。」

 

「まあ、それはそうだ。私なら十分に引き出してやることができるだろうな。しかし、私の要望はどうなる?私が燻るなど世界が認めないと思うが。」

 

「それですよ。今の貴方はただの若手でしなかい。かつての栄光を取り戻すには実力で世間に知らしめるしかないのですよ。ここで貴方の実力を見せつければ、私がトップとの試合を組んでも文句はないでしょう。このシングル戦はある意味チャンスなのです。」

 

「なるほどな。世間は転生したなどと説明しても理解は示さないだろう。分かった。私の実力、遺憾なく発揮してみせよう。私の引き立て役にさせてもらうが、構わないだろう?」

 

「良いですよ。お任せします。ただ、彼の力は強い。新人だからと侮りませぬよう。」

 

「舐めるなよ、小僧。まあ見ていろ。」

 

ファントムに睨みを利かせるノーマン。その様子を見て、(この人はこのまま一生転生キャラを続けるつもりなんだろうか?面倒だなぁ)と思うファントム・ヤマプロなのであった。

 

youtu.be