うわのそら

葛西琢磨行徳恭二は、ステージ裏で出番を待っていた。

今日の対戦相手はツチグモファントム・ヤマプロ、両者とも曲者である。

葛西は熱心に行徳と作戦を練ろうとしているのだが。

 

「ここは危ないから反対に動いて……って、ちょっと聞いてんの?」

 

「ああ。いつも通り、全力でやるだけだ。」

 

「いやいやいや、それではあの二人を相手にするのはキツイでしょ。妙な仕掛けに注意して、しっかり対策を練らないと。さっきから俺の話、全然聞いてないでしょ?」

 

「俺は日々の鍛練を欠かしてはいない。大丈夫だ。」

 

「うーん、なんか前の試合からずっと上の空って感じだよな。過去の同僚、そんなに気になるのか?」

 

「そんなつもりはないが、最近プロレスに妙に慣れ過ぎた気はしてる。俺は果たして強くなったのか?生活を優先し過ぎてはいないか?強さとは何か?俺の強さはあの人達と過ごした頃にあったような気がしてる。あの頃は日々強くなっていく実感があった。」

 

「もっと自信を持てよ。お前は色々なプロレスを経験して強くなってるはずだ。何度も戦ってきた俺が感じてるんだ。間違いない。」

 

「俺はお前と馴れ合いたいわけじゃない。俺は自分で強さを実感したい。しかし、仕事はちゃんとやる。そろそろそ出番のようだ。無駄話は終わりにしよう。行くぞ。」

 

「……分かった。俺達の正解はリングの上にしかないぜ。最高の自分を、今日も見せるだけさ。」

 

二人は揃ってリングへと向かっていった。

1人は自分が熱くなれる相手との戦いを求めて。

1人は自分の強さを証明するための戦いを求めて。

 

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