ジレンマ

今日のツチグモは、泥のボディスーツを着ていない代わりに、黒ずくめのシャツとパンツという出で立ちだ。

 

ファントム・ヤマプロも運動用のシャツとショートパンツという姿だが、マスクをしていない。

 

「承知した。その新人の相手、俺がやろう。」

 

「助かります。実戦忍者との対戦で、彼の対応力を伸ばしてやりたい。」

 

「しかし、初の大会場。初戦が私と新人の彼で良いのか?」

 

「動じない貴方がいるから任せられるんですよ。越冬にも良い経験となるでしょう。しかし、貴方も変わったものですね。昔はキャラとして演じていたのが、今や本物の忍者とは。」

 

「俺は真の強さを求めているだけだ。本当はもうプロレスのような表舞台に立つ仕事はしたくない。だが、忍者というのは今や観光者への見世物。それをしないものは生活もままならない。俺のような者はこうやって稼げる仕事をするしかないのだ。」

 

「昔の飛んだり跳ねたりする忍者レスラーも良かったんですけどね。いつしか本物の忍者に魅せられたから辞める、と言われた時は驚きましたよ。貴方とは良いタッグだった。」

 

「昔の話だ。今だってタッグを組んでいる。お前だって変わっただろう?昔はマスクマンだから飛び技をやる!とか言ってたくせに、試合内容はほぼシュートだった。それが何だって幻術を見せるとか言い始めたんだ?」

 

「それはもう昔の話ですよ。私達は今を生きるしかありませんから。」

 

「そうだな。今を生きよう。いつか俺は世を忍ぶ存在になるよ。」

 

二人の男は、街の中へと溶け込んでいった。

誰にも知られない、二人だけの時間だった。

 

youtu.be