次の6人タッグに向けての連携を確認し終えた三人は休憩を取っていた。
「しかし、久しぶりだな。
恭二とは練習どころか顔も合わせていなかった。
あの頃は打撃とグラウンドのスパーばかりやっていたが、
今じゃすっかりプロレスラーだ。
連携の練習だなんてな。」
穴倉想は昔を懐かしんでいる。
「そうだな、兄貴。なあ、覚えてるか?あのくそ暑い道場にいたそこらじゅうの虫を内城の部屋にぶちこんでやったこと。俺はアイツのあの顔を未だに忘れないよ。酒だって尋常じゃない程飲まされてさぁ……」
「いや、俺は覚えていない。」
「お前はそういう遊びには付き合わなかったからな。
いつの間にか行方を眩ませていて、逃げるのが上手い奴だったよ。
俺と瞬、行徳に内城。長谷川も出稽古に来ていたよな。
元バベル所属で未だ現役のメンバーがこんなに揃うのは何かの縁だ。
俺達また集まってよ、一大ムーブメント起こせるんじゃねぇかな?」
「そうだよ兄貴!俺達はまだ終わっちゃいないって!」
「いや、俺達は終わってるよ。あんたが終わらせたんだ。」
「いま俺を笑ったのか?……まあいい。
どうせ俺なんて負け犬だよ。お前は良いよな。
移籍して暫くして、今やすっかり人気者じゃねーか。
それに比べて俺はどうだ?あの敗戦で全て変わっちまった。
俺はエースになるはずだったんだ!この痛み、お前に分かるか?」
「分かるよ、兄貴。あれは会社の判断ミスだったんだ。
MMA用の練習なんてしてなかったのに、話題性を狙ってさ。
そんな兄貴を笑う奴等を俺は許さない。
どのリングに上がっても皆兄貴を笑う奴等ばかりさ。
このリングもさ、俺が汚してやるよ。他のリングと一緒だよ。」
「それはアンタに期待していたからだろ?
あれから戦える練習はしてないのか?俺はしている。
あの時、俺は悔しかったからな。仇を取る気でいたんだ。」
「まだ言ってるのか?あれはもう昔のことだ。
競技が違うんだから、手を出す必要なんて無かったんだよ。
俺は生きるためにプロレスラーをしているんだ。
稼げなきゃ意味がない。プロなんだから意識を持つべきだ。
俺は主役に返り咲いてみせる。俺を笑った奴を叩きのめしてな。」
「兄貴なら主役になれるよ!俺だってサポートするぜ。
なあ恭二。兄貴は凄いんだぜ?プロレスに見事に順応したんだ。
俺達がやってきた技術を活かしつつ、プロレスを吸収してさ。
プロレスナイズした俺達のスタイルに敵はいないんだよ。」
「よくわからんな。俺達は元々プロレスラーだ。
スタイルが少し違うだけで、そこに戦いがある。
どんな戦いにも備える必要があるはずだ。
俺はもう少し違う練習ができると思っていたんだが。
俺はもう少し身体を動かすことにする。」
「おい、やり過ぎは良くないぞ。本番じゃないんだからな。
お前も俺達といればいずれ分かるよ。今度の試合、頼んだぞ。」
行徳は一瞬足を止めたが、振り返らずにその場から消えていった。
それを眺めながら笑い合う穴倉兄弟であった。