自分のペースに持ち込んでいたつもりだった。
あの粘りは何だ?いや、粘りというか、受け切られたのか。
そこからの巻き返し、あそこからが本気だったのか。
俺はあの畳み掛けに耐えることができなかった。
今日の信道さんに遠慮は無かった。全力の怪物だった。
負けたのは悔しいが、清々しさがある。
全身に痛みはあるが、むしろ心地好い。
最近の信道さんは精彩を欠いていた。
強いままであったが、怖さが無くなっていた。
衰えたのかと、心が弱ったのかと思っていた。
習志野奏との一戦はまさにそれだった。
あのラリアットを受けてから先が覚えていない。
記憶が飛んでるな……10年前の衝撃を思い出す。
俺の先生、俺の好敵手、俺の目標だった信道さんが帰ってきた。
若い奏も驚異だ。恐ろしく強い外国人まで一気に増えた。
しばらく相手には困らないな。ヤマプロに戻ってきて良かった。
このリングでは激しい闘争が俺を待っているようだ。
俺の中に燃える闘争の炎で、このリングを真っ赤に染める。
次は負けない。俺の赤を打ち付けてみせる。