学校のレスリング場に二人。レスリング部を今日で引退する二人。
彼らは最後の試合をここで行う。二人きりの果たし合い。
どちらがトップだったかを最後に決めるため。
「恭二、お前は卒業したらどうするんだ?」
「俺は総合格闘家になるよ。そのためにレスリングをやってきたんだ。最強の男に俺はなりたい。レスリングは、まあそこそこの成績だったが楽しかったよ。でも、俺にとっては通過点だ。琢磨は?」
「俺はプロレスラーになりたいんだ。そのためにレスリングをやってきたんだ。最高の男に俺はなりたい。レスリングは、まあ俺もそこそこだったな。部活は楽しかったけど。」
「お前はプロレスの練習したり、試合でプロレス技使ったり、好き勝手やってたな。全く酷い奴だったよ。」
「よく言うよ。関節技使ったり、寝技狙いすぎてポイントで負けたりしてたじゃないか。全く酷い奴だったよ。」
「俺は真面目にやってたって。お前と一緒にするな。……なあ、何でプロレスなんだ?お前なら総合でもやれるんじゃないか?」
「いや、一番格好良いだろ?プロレス観てるとさ、身体が熱くなるんだよ。極限まで相手の技を受けて受けて、最後に必殺技で勝つんだ。その戦いに俺の心は揺さぶられるんだ。あの時の高揚感が最高でさ、俺も人にそういう気持ちにさせるような存在になりたいんだよね。お前だってプロレスやれるよ。何で総合なんだよ?」
「いや、一番強い格闘技だろ?総合観てるとさ、身体が熱くなるんだよ。極限の緊張感の中、研ぎ澄まされた攻撃を食らわせて勝つんだ。その戦いに俺の心は揺さぶられるんだ。あの緊張感が最高で、俺もそんな世界に身を置いて自分がどこまでやれるか試したいんだ。何でプロレスを選ぶのか、俺には分からないな。」
「それは俺の台詞だよ。一瞬で終わったり膠着したりしてつまんない試合多いじゃん。俺はもっと技の攻防を楽しみたいんだよ。すぐ終わったら気持ちも乗れないしな。」
「そこが良いんじゃないか。命を懸けるってそういうことだよ。攻撃を避けない方がよっぽど意味分からんね。」
「プロレスだって命懸けで技を受けてるんだよ!そこから這い上がってくるのが格好良いんじゃないか!」
……
「まあ、つまり俺達は譲れないってことだな。」
「仕方無いよな。お互い信じるものが違うんだ。」
「やっぱり、今日が俺達の最後の試合ってことになるな。」
「ああ。そういうことだ。」
「なあ、琢磨。」
「なんだよ、恭二。」
「お前、一番になれよ。」
「当たり前だろ。お前だってテッペンとれよ。」
「そしたら再会しよう。その頃にはお互い認め合えるかもしれない。」
「そうだな。そうしたら俺達、最高で最強に違いないよ。」
「それまでは、それぞれの道に邁進しようぜ。」
「ああ。俺が先にテッペンで待っててやるよ。」
「いや、待ってるのは俺だ。」
「それは無いな。俺が先だ。」
「口だけなら何とでも……て、そうだ。」
「どうした?」
「お前、ちゃんと告れよ。最後に悔いの無いようにさ。」
「はぁ!?それ今関係無いだろ?大体アイツはお前の事が好きなんだよ。お前こそアイツにちゃんと応えてやれよ。」
「いや、俺は良いよ。お前がいけ。」
「ふざけんなって。アイツの気持ち、ちゃんと考えてやらないと……」
「じゃあ、今日の勝負で勝った方の言うこと聞くのはどうだ?」
「そんな罰ゲームみたいにしたらアイツ可哀想じゃん。」
「お前が勝ったら、俺はちゃんとするよ。覚悟を決めてな。」
「うーん……いや、勝った方が告白だ!俺は覚悟を決めるよ。」
「……分かったよ。それじゃ勝った方でいこう。」
「わざと負けたりするなよ。」
「負けるのは嫌いだよ。」
二人はマットの上で構えた。
二人で向かい合う最後の1ページ。