ファントム・ヤマプロはバックステージからリングを眺めていた。
ニック・エリオットは趣味を満喫できるなら、幾らでも金を払ってくれる。
P・K・ラークは支配欲を満たせるなら、魅力溢れる選手を提供してくれる。
そして私が話題溢れる仕掛けをしていけば観客も集まってくれる。
資金が潤沢で、タレントも揃っていて、観客も盛り上がっている。
彼等を巧く使っていけばヤマプロは安泰というわけだ。
これからベルトも新設すれば新たな物語も生まれていくだろう。
全ては私の紡いだ幻で作り上げた、夢のような空間の完成だ。
「あの……すいません……」
「俺達、それぞれユニットに参加させてもらえることになりました。指導をお願いして、良くして頂いていたのに、勝手なことをしてすいません。でも、俺達……」
「いや、良かったんじゃないですかね。貴方達がこれから飛躍するきっかけを掴んだってことでしょう。さあ、巣立ちの時が来たのです。高らかに飛び立ち、素晴らしい、これからの活躍に期待してますよ。」
「あ、ありがとうございます!俺達、教えて頂いたことは忘れません!」
「ハハハ、そんな大袈裟な。団体が変わるわけではないですからね。私も貴方達には感謝をしているんですよ。貴方達の提案が無かったら、私はまだ団体の再建に踏み出せてはいなかったかもしれない。正直、かなり大変ですが、それでも貴方達の活動の場を作れている、観客が喜んでいる姿を見ていると、やって良かったなと思えます。これからは貴方達が団体を盛り上げてくださいね。」
「も、勿論です!俺達、頑張ります!しかし、師匠はどうなんですか?まるで一線を引いていくような口振りに聞こえますが。メインは他のメンバーに任せているし、主役に躍り出るような活躍をされていない。まさか、引退なんて考えていませんよね?そんなの駄目ですよ!師匠はまだまだやれますって!」
「ハハハ。飛躍してますね。勝手に引退させないで下さい。私もまだ終わるつもりはありませんよ。団体運営が軌道に乗りそうな気がしてます。これからはもっと前に出ますよ。新技も考えていますし、ベルトも狙っていくつもりです。ここでもうひと花、咲かせてみせますよ。」
「やった!そうこなくちゃ!」
「喜んでくれるのは嬉しいですが、人の事を心配してる暇は貴方達にはありませんよ。私がチャンピオンになったら、貴方達にとって倒さねばならない敵。越えなければならない壁なんですからね。巣立ったのならば容赦はしません。」
「はい!俺達は、絶対に越えてみせます!見ていて下さい!」
私は彼等に微笑みかける。
皆が満足にプロレスできるならばそれで良い。
ファンが楽しんでくれるのならばそれで良い。
私が夢見て設立した団体、一度は幻にしてしまった。
今度は壮大な幻を皆に見せ続けて存続させてみせる。
幻も紡いでいけば、いつか壮大な現実になるはずだ。
そう、全ては、幻なのです。