「じゃあね」
ジュディは溢れる涙を拭きながら、モニタ越しの彼に小さく手を振る。
リモート通話を終えて、もう何も映っていないモニタ。
それでもジュディはしばらくモニタを眺め続けていた。
そうすればいつか透けて相手の事が見えるんじゃないか?
そんな有り得ないことに期待しながら彼の事を考えていた。
かつて活動していたモデル業界は決して綺麗な世界ではなかった。
妬み僻みが渦巻き、騙し合い、蹴落とし合いは日常だった。
そんな世界にあって、彼は非常に珍しい誠実な人だった。
底抜けに優しくて、弱いものを放ってはおけない人。
彼といると安心感で包まれ、そっと背中を押してくれる気がした。
夢に向かって進もうと、生きる勇気を与えてくれる気がした。
また彼と朝を共に迎え、綺麗に揃えられた顎髭を撫でていたい。
彼のために尽くし、甘える幸せをいつも求めている自分がいる。
彼のような素敵な人を周囲の女達が放っておくはずはない。
誘惑に溢れ、罠に溢れるこの世界に彼が惑わされやしないだろうか。
信じてはいるが、不安な気持ちは抑えられず、涙が止まらない。
いつだって彼の側にいたい。が、彼はいつでも信じてと言ってくれる。
彼はいつだって夢を応援してくれている。期待には応えたい。
それが彼の愛に応えることだと思いたい。
そう、私は夢を叶える。
モニタには反射した自分の姿がうっすら写っている。
「……ひどい顔」
こんな顔を彼に見せていたかと思うと恥ずかしい。
ジュディは傍らに置いていたベルトを掴み、胸に抱える。
とうとう手に入れた大切なヤマプロのチャンピオンベルト。
ベルトを見ていると胸の奥から熱いものが溢れ出てくる。
それはジュディの感情を飲み込み、ジュエリーとしての欲望へと変わっていく。
*
私の夢は全てのタイトルを手中に収めること。
強敵達との激しい戦いを実現させて伝説を作ること。
誰にも成し遂げられない実績を、私の宝箱に全て詰め込むんだ。
それが、挫折を繰り返してきた私の存在意義を証明する手段なんだ。
そのためなら私は誰からも嫌われてやる。貪欲に食らいついてやる。
私は認められればそれで良い。好きでいてくれるのは彼だけで十分だ。
そう、私はジュエリー・キンバリー。
宝箱を宝石で埋め尽くすために戦い続ける、貪欲の化身。
泣くのは貴方、私ではないのよ。