こぼれ落ちる宝石

「じゃあね」

 

ジュディは溢れる涙を拭きながら、モニタ越しの彼に小さく手を振る。

 

リモート通話を終えて、もう何も映っていないモニタ。

それでもジュディはしばらくモニタを眺め続けていた。

 

そうすればいつか透けて相手の事が見えるんじゃないか?

そんな有り得ないことに期待しながら彼の事を考えていた。

 

 

かつて活動していたモデル業界は決して綺麗な世界ではなかった。

妬み僻みが渦巻き、騙し合い、蹴落とし合いは日常だった。

 

そんな世界にあって、彼は非常に珍しい誠実な人だった。

底抜けに優しくて、弱いものを放ってはおけない人。

 

彼といると安心感で包まれ、そっと背中を押してくれる気がした。

夢に向かって進もうと、生きる勇気を与えてくれる気がした。

 

また彼と朝を共に迎え、綺麗に揃えられた顎髭を撫でていたい。

彼のために尽くし、甘える幸せをいつも求めている自分がいる。

 

彼のような素敵な人を周囲の女達が放っておくはずはない。

誘惑に溢れ、罠に溢れるこの世界に彼が惑わされやしないだろうか。

 

信じてはいるが、不安な気持ちは抑えられず、涙が止まらない。

いつだって彼の側にいたい。が、彼はいつでも信じてと言ってくれる。

 

彼はいつだって夢を応援してくれている。期待には応えたい。

それが彼の愛に応えることだと思いたい。

 

 

そう、私は夢を叶える。

 

 

モニタには反射した自分の姿がうっすら写っている。

 

「……ひどい顔」

 

こんな顔を彼に見せていたかと思うと恥ずかしい。

 

ジュディは傍らに置いていたベルトを掴み、胸に抱える。

とうとう手に入れた大切なヤマプロのチャンピオンベルト。

 

ベルトを見ていると胸の奥から熱いものが溢れ出てくる。

それはジュディの感情を飲み込み、ジュエリーとしての欲望へと変わっていく。

 

 

私の夢は全てのタイトルを手中に収めること。

強敵達との激しい戦いを実現させて伝説を作ること。

 

誰にも成し遂げられない実績を、私の宝箱に全て詰め込むんだ。

それが、挫折を繰り返してきた私の存在意義を証明する手段なんだ。

 

そのためなら私は誰からも嫌われてやる。貪欲に食らいついてやる。

私は認められればそれで良い。好きでいてくれるのは彼だけで十分だ。

 

 

そう、私はジュエリー・キンバリー

宝箱を宝石で埋め尽くすために戦い続ける、貪欲の化身。

泣くのは貴方、私ではないのよ。