「花道の設置と……こんな演出まで!ここまでお金をかける必要があるんですか?」
設備の内訳をパソコンでチェックしているファントム・ヤマプロは驚きを隠せない。電話口のニック・エリオットは笑っている。
ニック「ハッハッハッ!おいおい、そりゃそうだろう。イベントってのはこれぐらい金をかけて演出しないとダメなんだよ。会場も少しとはいえ大きくしたんだからよ、来てくれた客を満足させないとな。でなきゃよぉ、客は口コミしてくれたり、リピーターになってはくれねぇんだ。そのイベントだけの収益で考えず、次に繋げないと続かねぇよ。」
ファントム「な、なるほど!だから、私の経営はダメなんですね……わかりました。このリストの通り発注しましょう。これだけ資金提供してもらえるならば十分用意できるはずです。」
ニック「それでだ。メインイベントなんだが……」
ファントム「そうですね。誰と試合したいんですか?やはり、信道ですか?」
ニック「その通り、メインは信道進だ。でも相手は俺じゃあないぜ。対戦相手はパウロ・マルティネスにしてくれ。」
ファントム「なんですって?貴方は試合しないんですか?公開処刑みたいなことがしたいのでしょう?信道はそう簡単にはやられないと思いますが。」
ニック「マッチメイクが俺の自由ならよ、別に俺じゃなくても良いんだろう?」
ファントム「しかし、今からパウロに来日交渉なりしないと……」
ニック「それなら大丈夫だ。既に俺が話をつけてる。なぁに、この前すっかり仲良くなってさ。アイツはなかなか良い奴だぜ。」
ファントム「いつの間に……まあ、この二人のシングルがメインなら客も納得はするでしょうし、きっと良い試合をするでしょう。」
ニック「良い試合、ね。まあ、そうだろうな。試合はしないが、当日は俺も顔は出す。ちょっと客の前で発表したいこともある。翻訳家も俺が用意するから心配はいらないぜ。」
ファントム「……一体、何を仕掛けるつもりですか?」
ニック「そんな警戒すんなって。俺がこれからもこのリングで頑張るよっていうのを直接言いたいだけさ。それで今後もお客様に足を運んでもらおうってのさ。次が見えないとリピートにならんだろ?なっ、共同経営者!」
ファントム「まあ、それはそうですが……」
ニック「まあ任せとけよ。きっと、面白い試合になるぜ。きっと、な。」
電話口からでも感じるニックの嫌らしい笑い顔にファントム・ヤマプロは不安しかなかった。信道なら何を仕掛けられても対応はできるはずという信頼はある。だが、金の力で様々な謀略を働いてきた男だ。
何かある。
それだけは確信を持てる自信はあった。自分が切れるカードは何があるか?必死に頭を巡らすファントム・ヤマプロであった。