私はウイスキーが苦手である。
私の好きな日本酒とはまた違った、焼け付くような感覚。
酔いの回り方も早く、風味がまた吐き気を誘ってる気がする。
海外を回っている間でも、全く馴染めなかったこの味わい。
しかし、今日の私はもてなす側であるので我慢するしかない。
共同経営者であるニック・エリオット、そして私の師匠であるPKラーク。
この二人は既にウイスキーを一本空け、追加注文をしたところだ。
「しかし、貴様が経営者とはな。自分には才能がないと言っていたじゃないか。ビジネスは成り行きでやるもんじゃないぞと忠告してやったのに、全く貴様はバカだな。」
PKラークことポール・カークマンはニヤニヤと嬉しそうに笑っている。
この薄暗いバーの中では、一層怪しげな顔にも映る。
「あんたの言う通りだ、ポール。こいつは俺がいなければ、てんでダメな経営者だよ。情に流され、冷静な判断ができていないんだ。」
ニックも親しげにポールと言葉を交わしている。
さっきから私の事を散々楽しそうにからかっていた。
しかし、実際からかわれても仕方の無い状況ではある。
過去5回のイベントは成功しているといっても良い。
客入りは良いし、盛り上がってもいるようだ。
だが、実績のある選手を増やしたことで、採算が良くない。
このままではヤマプロは近いうちに終わりを迎えるであろう。
「だからさ、コンテンツを有料配信するしかないんだよ。目先に囚われずにさ、商売は大きくやるんだ。お前は何とかしたいんだろう?身を削ってでもやらねばならない団体運営なんだろ?俺もビジネスは魅力的であって欲しいんだ。分かるだろ?何とかそれに耐えうる魅力的なコンテンツを考えてくれ。」
ニックは私にビジネスを持ちかけてきていた。
成功させるには、一体どうしたら良いのか。
魅力的なコンテンツとは……
私には師匠に頼る手しか思い付かなかった。
「貴様の言うことは分かった。俺もオーナー主導のストーリー展開に限界を感じていたんだ。自由にやらせてもらえるなら、俺はヤマプロのリングに上がろう。勿論、貴様の望む大型選手を連れてな。このラーク・カンパニーが参加すれば、それは盛り上がるに決まっているからな。」
「本当にありがとうございます。師匠には何とお礼をいったら良いのか。師匠にインサイドワークを教えてもらったから今の私があります。今回の件も含め、全て師匠のおかげです。日本人と外国人の対抗路線、私は絶対に成功すると思っていますよ。」
「……ふふん、まあいい。ただギャラを安くするつもりはない。会場を大きくして、どれだけ人を集められるか。見せてもらうよ。配信もするんだろう?」
「試験的ですが。この収入も含めれば、絶対にギャラは払えますので。何とかしますので。」
折角復活させたヤマプロ。今度こそ終わらせるわけにはいかない。
何人もの人生を預かっているのだ。助けてももらってきた。
全てに報いるためにも、恩返しがしたい。育ててやりたい。
何より、激しいプロレスの戦いを、皆に見せてやりたいのだ。
習志野奏率いる「D.O.P.E」ならやってくれるはずだ。
「……ファントム・ヤマプロ、楽しみに待っているよ。」
師匠、ポールは、最後までニヤニヤと笑っていたのだった。