長谷川修二は、ニーパッドの具合を確かめる。
蹴り技を主体とし、飛び技も使うので、膝は当然酷使される。
いつ壊れてもおかしくないファイトを続けている。
少しでも長く続けたいと矛盾した想いを抱いている。
しっかりと準備運動をし、テーピングも終えた。
ニーパッドをひとつ叩く。乾いた音が響く。よし、問題ない。
不安は捨て、信じるままに全力で、持てる全てをぶつけるのみ。
力が全てだ。
印西國昭は、エルボーパッドの具合を確かめる。
ラリアットを何度も打ち付けるので、肘は当然酷使される。
いつ壊れてもおかしくないファイトを続けている。
いつ壊れてもいいと覚悟しながら全力で腕を振るう。
激しく打ち付け、打ち付けられる戦いに生き甲斐を感じる。
そんな戦いに会場は熱狂し、それを感じて心を満たす。
今日も満ち足りた瞬間を求め、持てる全てをぶつけるのみ。
力が全てだ。
パウロ・マルティネスは、鏡に映る姿を気にしている。
どんなに酷使しても全く疲れたことも無いし、故障もしない。
相手が壊れてもおかしくないファイトを続けている。
金を得るためには壊さない方が良いことは覚えたつもりだ。
鏡に映る自分は、今日も金と女を呼ぶ姿をしているようだ。
俺は今日も眠らない。リングでも、ベッドでもだ。
全てを与えられたこの身体を思うままに振るうのみ。
力が全てだ。
ニック・エリオットは、クラシックを聴いている。
恵まれた肉体と、恵まれた富で、全てを思い通りにしてきた。
相手が首を抱えて苦痛に歪むファイトを続けている。
相手が壊れようが、自分が生きていくことに何の問題もない。
心身共に屈服させることができれば、それで満足なのだ。
それが出来る場所をまた失うわけにはいかないのだ。
駆け引きを楽しみつつ、思うままに持てる全てを振るうのみ。
力が、全てだ。