壁は崩れ落ちた

習志野奏に叩きのめされた。

これが若い力なのか、勢いには勝てないのか。

若手の壁、という自分の役目は終わったのか。

 

このまま自分の価値は下がり、落ちていくだけなのか。

若手の壁ではなく、踏み台になるしかないのか。

 

学生の頃から怪物と呼ばれてきた。

ヤマプロが一度潰れるまで、ずっと。

 

全力で戦えることが楽しかった。

喋ることは苦手だが、全力でいれば良かった。

スタンリー長谷川と戦っている時は最高だった。

 

様々な団体を渡り歩くことになってからは窮屈で仕方ない。

いつも手加減をしてきたが、難しかった。加減がわからない。

加減を間違え、相手を失神させると、次からは呼ばれなくなった。

 

本気になってはいけなかった。

そうしているうちに勝てなくなった。

 

使われる技も年々複雑になっていった。どうにもついていけない。

怪我をすることも多かった。客からはヤジが飛んだ。

 

生活に困り始めた頃、ファントム・ヤマプロと再会した。

加減をしなくて良い、若手の壁になれと言われた。

そして全力を出し、負けたのだ。自分は、ただの人間です。

 

 

本当にそうか?

 

 

自分は全力を出せたのか?

 

 

いつの間にか全力の出し方を忘れてしまったのでは?

加減をする戦い方に慣れてしまったのではないか?

 身体能力は20代の頃から変わってはいないのだ。

 

貪欲に勝利を狙わなくなった。使わなくなった技がある。

自分は不器用だと思っていたが、人間とは分からないものだ。

 

皆が自分に追い付いてきたらしい。加減をしている余裕はない。

今なら本気を出せる。もはや出し惜しみなどしていられない。

 

現在のトップ、長谷川修二との対戦を希望した。

復活の狼煙は、かつての好敵手と。

全力を出し尽くすと忠告した。

 

楽しい戦いが始まる。

今が、全盛期だ。